今年はなぜか「路地裏」にこだわってきたような気がする。
この23日に上京したついでに、文京区茗荷谷から本郷まで歩いた。この周辺は明治以来の文豪墨客の史跡が近くに並んで点在する土地である、今回は主に、小石川小日向、本郷団子坂、菊坂あたりの路地裏を歩いた。何せ坂と谷ばかりである。しかもそれぞれの台地、坂、谷に名前が付いている。どこかで読んだり、聞いたりしたような名前が多い。自動車の通行ができないような狭い道があるので、まさに路地裏と言うにふさわしい。有名な『坊っちゃん』の最後の「死ぬ前日おれを呼んで坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんの寺へ埋めてください。お墓の中で坊っちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと言った。だから清の墓は小日向の養源寺にある」という文章にひかれて小日向4丁目に行った。養源寺という寺はなく、清の墓のモデルとなったのは「本法寺」という寺である。このへんとしては敷地が広い立派な寺である、清の墓はもちろんないが、漱石の句碑があり、清の墓の謂れを書いた石碑がある。このくだりがある『坊っちゃん』の唐突に付け加えた感さえする最後の一節は、漱石の文章の中でも、いや、あまたある明治以来の小説の最後の文章として傑出していると私は思う。美しくあはれで、それでいて何か暖かさが感ぜられ、決して忘れえない文章である。
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