「路地裏」という言葉には、独特の響きがある。また「路地裏」は比喩的な意味や趣を表現し、伝えてくれる言葉でもある。私はどちらかと言えば「路地裏」を記憶や経験の比喩的な意味や表象を踏まえて使っている。意識的というよりはどこか無意識的な何かが働いているようにさえ思える。「路地裏」という言葉には、表面に現れない何かを隠し、自分にとって不可思議なものに出会う入り口や場所であるようなものを自分自身に言い聞かせるような言葉である。また路地裏は、どこの街、どこの村に行っても出会えるような場所であると同時に、他方非常に具体的で経験可能な場所でもある。「路地裏」に関して一つだけはっきりしていることは、一度も出会ったことのない未知なるものが、既に自分の過去において経験したかのような錯覚を伴うことである。それゆえ、行ったこともない外国や見知らぬ土地でも「路地裏」に出会うことがあり得るのである。
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高速道路や都市を迂回するバイパス道路ができて、街の景観が全く変わった。それは全世界共通の現象である。二点を結ぶ最短距離は直線であるという原理は、人間の理性とそれが要請する技術の合同作業による強引な暴力による結論である。最近自動車道路は、街の郊外にロータリーと呼ばれる方向転化する円形の道路装置が作られ、街中を通り抜けることなく次の都市に直線的に回される。フランスなどでも昔は旧市街を通る道路を走り、車を止めて街の食堂に入ったり、時間の都合がつけば街をうろつくことができた。そうこうしている時間は無償の楽しみであると同時にそこで知ることができた珍しい景観や街並みは喪失することのない記憶となり、時には忘れられない思い出の残る人物に出会い、そこで営む生活の匂いや雰囲気を味わうことができた。そこでたまたま行われている土地のお祭りや骨董市に偶然出会うこともあった。
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