3月11日に起こった「東日本大震災」の次の日、福島原発の事故が報道されたとき、事故の内容はまだほとんどわからなかったが、皆へのメールに「ナージャの村」のようにならないことを願うばかりです、と書きました。「ナージャの村」はチェルノブイリの原発事故で、村民が強制避難させられた地域にありました。その村を、写真家、本橋成一が撮ったすばらしい写真集があります。映画化もされ、世界の多くの人々に感激を与え、話題になりました。そこには、その村の住民の中に、強制的避難勧告があったにもかかわらず、そこで生まれ、これまで生きてきたこの場所で死にたいと嘆願し、その村を離れなかった村民がおり、その人々の生活とそれを囲む自然が淡々と描かれています。その村に育ったニコライという村民の心境と嘆きの言葉が心を打ちます。
人々はパンを食べる。
わたしたちは放射能を食べる
国はとおくに去っていった。
私たちはこの地に、
踏みとどまる。
もしロシアを捨て天国に生きよ、
といわれたら、
わたしはいう、
天国はいらない、
故郷を与えよと。
ニコライ
(本橋成一『ナージャの村』より)
国家には、人間の自己保存と自己責任、つまり「人間存在」対して法的な強制力はないし、あってはならない。倫理は法に先行する。
福島原発近郊の町村にあっても、ニコライのような住民は必ずやいるであろう。そのような人間の尊厳と自由を奪ってはならないと、強く思う。